キミとの距離は1センチ
……ああ、もう。

もう、本当に、このひとは。


うれしくて、だけど恥ずかしくて、ふにゃりと泣きそうに顔が歪んだ。

そんなわたしを見て、伊瀬はやっぱり笑ったけれど。

不意にその表情を、曇らせた。



「それより……おまえは、もういいのかよ」

「え?」

「……宇野さんのこと」



言いにくそうにつぶやいた彼に、申し訳ない気持ちばかりが沸き起こる。

背中に回した手に、ぎゅっと力を込めた。



「……あのね。宇野さんは、『恋』じゃなかったんだ」

「は?」

「わたしも宇野さんも、お互いにきょうだいみたいに思ってたの。だから、何の未練もなく、ちゃんとお別れできたんだよ」



言いきって、ちらりと、伊瀬の顔をうかがった。

彼はわたしの話を、呆然とした表情で聞いていたけれど。

すぐにその顔を崩して、ため息をつきながら、またわたしの肩にひたいを乗せた。



「は、マジかよ……」

「な、なんか、ごめん」

「宇野さんとおまえが駅でキスしてるの見たとき、俺がどんな気持ちで……」



危うく聞き流しかけた、そのつぶやき。

わたしはあわてて、伊瀬のからだを離す。
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