キミとの距離は1センチ
「ちょ、ちょっと待って……っえ、駅でキス、って……もしかして、ウォーターパークのとき??!」

「……そうだけど」



答える伊瀬は、やっぱり憮然としている。

わたしだけが動揺しながら、あわあわと落ち着きなく目を泳がせた。



「えっ、え……っあ、あのとき伊瀬、見てたの?!」

「見てたよ。つーか、あれは見せつけてたんだろ、宇野さんが」

「え、ええええ」



み、見られてないと思ってたのに……!!

ななな、なに考えてるの、宇野さん!!


たぶん顔を真っ赤にして、わたしはうつむきながら下くちびるを噛みしめた。

そんなわたしを黙って見ていた伊瀬が、ふわりとわたしの両頬を掴んで顔を上げさせる。

すぐ目の前にあるのは、ものすごく不機嫌そうな、彼の端正な顔。



「……やっぱり俺、あの人嫌いだ」



つぶやいたかと思うと、いきなりくちびるを重ねられて、わたしは目を見開く。

今さらだけどここは会社で、誰に見られているかも、わからなくて。

すぐに抵抗しようとしたけれど、彼の激しいけれどやさしいキスに、簡単にからだの力が抜けてしまった。

はあ、と熱い吐息とともにくちびるが離れた瞬間、また、強く抱き寄せられる。
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