キミとの距離は1センチ
「佐久真、」

「よっす。……さなえちゃん、まだ残ってたんだね。お疲れさま」

「……お疲れさまです、珠綺さん」



わたしの言葉に、ベンチに座っていたさなえちゃんが小さく微笑む。

見るとその手には、ここの自販機の紙コップが握られていて。さっき定時でオフィスを出た後、ここで伊瀬と談笑していたのだと容易に想像がついた。


わざとらしく口元に右手のひらをあて、もう片方の手の指先で伊瀬の肩をつつく。



「みんなのアイドルのさなえちゃんをひとり占めなんて、伊瀬も隅に置けないなあ」

「うるさいな。佐久真も休憩かよ」

「うん、自販機。で、伊瀬のこと、浅尾さんがあわてて探してたよ」

「あー……」



心当たりがあるのか、首元に手をやった伊瀬がぐいっと紙コップの中身をあおった。

そのタイミングで、さなえちゃんもベンチから立ち上がる。



「それじゃあ、私も帰ります。伊瀬さん、珠綺さん、お先に失礼します」

「うん。お疲れ」

「お疲れさまー。気をつけて帰ってね」

「はい。ありがとうございます」
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