キミとの距離は1センチ
「おはようございます」
オフィスのドアが開く音がしたから、反射的にそちらへ視線を向ける。
就業時間開始20分前、サラサラの黒髪を揺らしながらいつもの涼しい顔で出勤してきたのは、我が同期だ。
わたしの、右斜め向かいのデスク。ビジネスバッグを置いてそのまま椅子を引こうとしたその人物を、ちょいちょい手招きする。
「伊瀬、ちょっと」
「……なに、佐久真。おはよう」
「おはよ。いーから、ちょっと来て」
気安い同期なわたしに対してもしっかり挨拶をする伊瀬 昴は、超律儀なヤツ。
自分でも胡散臭いと思う満面の笑みに、伊瀬は不審そうに眉を寄せたけれど。
やっぱり律儀な性格なので、デスクの島を回って、自分の席に座るわたしのそばまで来てくれる。
「あ、木下さんも。おはよう」
「おはようございます、伊瀬さん」
「ねー伊瀬、こないだの健康診断、どうだった?」
自然と浮かんでくる笑みを隠そうともしないまま訊ねるわたしを、彼がちらりと一瞥する。
伊瀬は朝に弱い。だから印象的なその切れ長で二重の瞳は、この時間いつも若干眠たげに覇気を失っている。
クールビズ運動でネクタイをつけていないワイシャツの襟元を整えながら、「なにが」と伊瀬は一言だけ返してきた。
オフィスのドアが開く音がしたから、反射的にそちらへ視線を向ける。
就業時間開始20分前、サラサラの黒髪を揺らしながらいつもの涼しい顔で出勤してきたのは、我が同期だ。
わたしの、右斜め向かいのデスク。ビジネスバッグを置いてそのまま椅子を引こうとしたその人物を、ちょいちょい手招きする。
「伊瀬、ちょっと」
「……なに、佐久真。おはよう」
「おはよ。いーから、ちょっと来て」
気安い同期なわたしに対してもしっかり挨拶をする伊瀬 昴は、超律儀なヤツ。
自分でも胡散臭いと思う満面の笑みに、伊瀬は不審そうに眉を寄せたけれど。
やっぱり律儀な性格なので、デスクの島を回って、自分の席に座るわたしのそばまで来てくれる。
「あ、木下さんも。おはよう」
「おはようございます、伊瀬さん」
「ねー伊瀬、こないだの健康診断、どうだった?」
自然と浮かんでくる笑みを隠そうともしないまま訊ねるわたしを、彼がちらりと一瞥する。
伊瀬は朝に弱い。だから印象的なその切れ長で二重の瞳は、この時間いつも若干眠たげに覇気を失っている。
クールビズ運動でネクタイをつけていないワイシャツの襟元を整えながら、「なにが」と伊瀬は一言だけ返してきた。