キミとの距離は1センチ
「伊瀬、もしかして……さなえちゃんのこと、狙ってる?」

「はあああ~?!」



ぐりん、と勢いよく振り返りながら思った以上に大きく漏れた声に、びくりと佐久真が肩を震わせた。

ちょっとだけ俺と距離をとりながら、彼女が続ける。



「え、だって伊瀬、お昼もさなえちゃんのことかばってたし……気に入ってなきゃ、あんなことできないでしょ?」

「………」

「ていうかふたり、結構お似合いだと思う、けど……」

「………」



話しながら、だんだん語尾が小さくなっていく佐久真を、思わず無言でガン見。


……こんな鈍感って、有りか?

自分に向けられてる好意に気付かないのはともかく、あまつ俺が、木下さんを狙ってるとか……。

……どんだけ俺のこと、眼中にないんだよ。驚き通り越して、いっそ悲しくなってくるぞ。



「ちょ、な、なに、その顔……」

「……ほんっとに、おまえは…………いや、なんでもない」

「なっ、なんなのー?!」



俺の言葉に反応した佐久真が喚くけど、それはスルーしてため息混じりに紙コップを捨てる。

……知ってたけど、佐久真の鈍感は。……知ってたけどな、うん。

ちら、と再び佐久真に視線を向けてみれば、やっぱり訳がわからないといった表情できょとんとしている。

そんな彼女から顔を背けて、俺はオフィスへと足を向けた。
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