キミとの距離は1センチ


◇ ◇ ◇


「あれ、伊瀬くんだ。お疲れさま」

「……宇野さん。お疲れさまです」



10階のエレベーターを降りたところで、ポンと後ろから誰かに肩を叩かれた。

振り返った先にいたのは、先日も佐久真と一緒にいるときに遭遇した、宇野さんで。

思わず顔をゆがめそうになってしまうのをなんとか堪えて、俺は会釈する。



「この階にいるってことは、会議室?」

「はい。宇野さんもですか?」

「いや。俺はちょっと、総務に野暮用」



言いながらにこりと微笑むその人の背後に、きらびやかな花や後光が見える気がする。俺には悪寒しか感じないが。

宇野さんは『ブルバ本社の王子様』とか言われてる長身の美形で、佐久真が以前いた量販営業部の先輩で。

そして佐久真と、付き合っている男。

……正直言って、社内で1番会いたくない人物だ。
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