キミとの距離は1センチ
「……合コン? ですか?」



訝しげな俺の言葉に、満面の笑みを浮かべた西川さんがこくこくとうなずいた。

西川さんは、マーケティング部の先輩だ。年がら年中、「ああ~~彼女が欲しい~~」と嘆いている。

そんな人に突然喫煙ブースの前で呼び止められて、何の話かと思えば。



「日程は今週の土曜日、相手は近くの会社に勤めてるOLさんたち! 男側は全員ブルバで揃えてんだけどさぁ~、あとひとりどうしても足りねんだよ。な、だから若殿どうかなって!」



さっきまで喫煙ブースでタバコを吸っていたのか、なんとなく西川さんのまわりが煙たい。

バレないように身を引きながら、俺は若干距離をとった。

ていうか今さらながらこの人、一応後輩の俺に『殿』とか付けて呼ぶのまったく抵抗ないんだろうか。



「せっかくですけど、お断りします。土曜日は用事が……」

「とか言って、いっつも若殿断るじゃねーかよ! いいだろ、1回くらい~。おまえが女口説こうとするところ、見てみたいし!」

「………」



口説こうにも、まずそこまでの段階に行かないんですけどね。相手がまったく自分のことを意識してないから。



「? 若殿、なにやってんの?」

「いえ、別に……」



ぽわん、と無意識に思い浮かんだ能天気な笑顔を、頭上で右手をパタパタさせることで消し去る。

ほんと……自分で考えて、悲しくなるな。
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