キミとの距離は1センチ
と、そこで西川さんが、俺の背後に目を向けて「あっ」と声をあげた。

何事かと俺が振り返る前に、視線の先へぶんぶん手を振る。



「おーい佐久真っち~!」

「……ッ、」



声に釣られてバッと後ろを振り返ってみれば、何やら青いファイルを持った佐久真がこちらに近付いてくるところで。

残り数メートルはやや小走りに、彼女は俺たちの前へとやって来た。



「お疲れさまでーす。西川さん、まーたここですか」

「そんな厳しいこと言うなよー、佐久真っち」

「あはは。伊瀬、めずらしいねぇ、ここいるなんて」

「まあ……」



佐久真は俺のタバコ嫌いを知ってるからか、微笑みながら小さく首をかしげた。

言葉を濁す俺の目の前で、空気を読まない西川さんがこの場に爆弾を落とす。



「なあ、佐久真っちからも言ってやってよ。若殿さぁ、何回合コンに誘っても乗ってくれないんだぜ~?」

「へ?」



ぱちぱち、佐久真が目を瞬かせた。


西川さん……あんた少し黙っててくれないかな……。

ふたりからは見えない位置でぐっとこぶしを握りしめる俺に気付くことなく、万年色ボケ西川はさらに続ける。
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