キミとの距離は1センチ
「実はね、わたしも量販営業部のときの先輩に、合コンのセッティング頼まれてるんだよねぇ。伊瀬連れて来てって」

「は……」



へらりと笑う佐久真に、間抜けな声だけが漏れる。



「伊瀬、実は結構人気あるんだよ~? わたしが同期だからって、みんなに羨ましがられるんだから」

「うっわー許せねぇ! やっぱコイツ合コンに連れて行きたくないわー!」

「えっちょっ、西川さん……」

「………」



……なんだ、それ。

おまえが、それを言うのか。


『お試しにでも』? ……どうせすきになれる人なんていないと、わかってるのに?

『人気がある』? ……そんなの、ただひとり振り向いて欲しいヤツに見てもらえないんじゃ、なんの意味もない。



「……悪いけど、」



再び騒ぎ始めた、佐久真と西川さん。

そのふたりにハッキリ聞こえる音量で、俺は口を開いた。



「悪いけど、俺は行かない。佐久真の方も、そう伝えといて」

「え、……あ、うん」

「じゃあ、俺急ぐから」



視線を向けるのもそこそこに、俺は踵を返して歩き出した。

完全に背を向ける直前見えた、困惑したような表情の佐久真の顔を、頭の中から追い払う。
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