キミとの距離は1センチ
「……ああ、思っきし打ったからな。どっかの誰かさんが、いきなり変なこと言うから」

「そ、それは、ごめんってば」

「……ふ、冗談。別にいいよ、俺オンナでもないし」



軽く笑みを浮かべながらそう言って、伊瀬は再び歩き出した。

少し遅れて、わたしも足を動かしたけれど。今度は隣りじゃなく、斜め後ろを歩いた。



「………」



彼には気付かれない位置から横顔を盗み見ながら、自分の、少しだけ熱くなってしまった頬に左手をあてる。


……先に近付いたのは、わたしからだったのに。

伊瀬に同じことをされたら、なぜか逆に、自分の方が気恥ずかしくなってしまった。


ちらりと、もう1度だけ、まっすぐに前を向く彼の横顔を見つめる。



「(……伊瀬は、)」



伊瀬は、さっきの距離に……なんとも、思わなかったのかな。

彼に握られていた右手は、ほんの少しだけ、震えていた。
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