キミとの距離は1センチ
するとすぐ横を、そこそこのスピードで見覚えのある女の子が通り過ぎる。

改めて見るとそれは、同じように泳ぎながら浮き輪を引っ張る伊瀬と、がっちり浮き輪にしがみついているさなえちゃんで。

……ねぇ、さなえちゃん若干、涙目になってない?



「あれ? 伊瀬くんも、元水泳部?」

「んー、違います。たしかテニス部」

「すごいなあ。もしかして俺、張り合われてるのかな」

「そうみたいですね。伊瀬って結構、負けず嫌いですよ」

「うーん、じゃあ、本業としては受けて立たないとねー」



のんびり言いながら、宇野さんがぐるぐると腕をまわした。

わたしはがっちり、浮き輪を掴み直す。


──宇野さんと伊瀬の不毛な争いは、そのうちまわりのお客さんたちにも見守られながら、さなえちゃんが目をまわすまで続けられた。
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