10%
薄暗い水族館の中は、家族連れや恋人達で一杯だった。
雅と隙間隙間から顔を突っ込んで、色々な水槽を見ていく。足元を子供たちが走り回り、大変だった。
興奮した雅が大阪弁でべらべら喋る。本当によーく喋る。名前が雅なんて優雅なものなのに、どうしてこうなった?といっては笑うのが親戚一同の決まり事であるくらいだ。一体この子はどんな大人になることやら。
「あ、見て見て、芽衣ちゃん!イルカのショーやて。行こう!!」
看板を指差して言う。早く行かないと席がなくなると騒ぐので、はいはいと返事をしてイルカのプールに向かった。
まだショーまでは30分あるというのに、客席は既に半分ほど埋まっていた。
駆け出していく雅を追いかけてたら、足元の水にサンダルが取られてつるりと滑った。
「・・・わ・・・」
バランスを失って倒れかけるのを、なんとか踏ん張って耐えた。
「・・・いった・・・」
腰を変に捻ってしまったらしく、顔をしかめていたら、目の前に影が落ちた。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫で―――――」
パッと顔を上げて仰ぎ見たら、逆光で影になった男の人があたしを覗き込んでいた。
ドクン。
鼓動が耳の中で跳ねた。
水族館の制服を着てキャップを被った男性が、微笑してあたしを見ていた。
しばらく、ぼーっと見詰めてしまった。
・・・・・あらららら。・・・・いい、男・・・。