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 肩のところにある妙子さんの髪の毛から花のようないい香りがして、つい、動揺してしまった。

 手から落ちた雑巾を慌てて拾ってしっかりと絞る。

「・・・ジュース、誰かがこぼしてたみたいで」

 小さな声で説明した。

 妙子さんは暫く黙っていたけど、ふーん、と明るく頷いて、俺から離れる。

 ・・・・・・うわあ・・・やべー、ビックリした。

 動揺してしまった自分を殴りたかった。

 何うろたえてんだよ、俺は。はあー・・・深呼吸しよ。目を閉じて、ゆっくりと呼吸をした。

 そして館内に戻り、床と椅子の処理を始める。

 妙子さんは事務所にいるのに、花の香りがまだ近くでするようだった。

 手に力を入れてごしごしと擦る。

 水を湿らせて、叩くように。一心にやっていたら、やっと妙子さんの事が頭から離れた。

 納得するまで椅子を拭くと、息をついて立ち上がった。よし、とれた。

 ガランとした劇場内を最後の確認をして、出たところのスイッチで照明を消す。

 これであとは自販機のチェックだけして――――――

 段取りを確認しながら、ふと顔を上げたら、事務所の鍵を閉めた妙子さんと目が会った。

 鍵がかかったかを確認した妙子さんが俺に笑いかける。

「・・・・そっちも終わった?」

「はい」

 自動的に返事が出た。その習慣に感謝した。


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