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「コーヒー、飲む?」

 言いながら妙子さんは俺の横をすり抜けて自販機にコインを入れた。

 大介君は、ブラック、と口に出しながらボタンを押し、冷たい缶コーヒーを俺に手渡した。

「はい、お疲れ様。私の奢り」

 ニコニコしていた。俺は目も合せずに頭を少し下げてお礼を言う。

 自分の分もコーヒーを買って、妙子さんはソファーに座った。

 俺はそれを見ながら口を開いた。

「・・・・家は、大丈夫なんですか?」

 一口コーヒーを飲んで、妙子さんは首をかしげた。

「今日も、ダンナは遅いの」

「・・・・掃除したって妙子さんは金貰うわけじゃあないんでしょう」

「そうね」

「・・・じゃあ、何でくるんですか」

 暫く黙って、妙子さんはコーヒーを見詰めた。

 俺は立ったまま、手で冷たい缶コーヒーを握り締めていた。つい、出てしまった質問だった。

 彼女が来よう来まいが、俺に関係ないって言い聞かせるのも、そろそろ難しくなってきたのだ。

 自分に自信がなかった。

 誰も居ない映画館で妙子さんの笑顔を見ているのが不安だった。

 妙子さんはふう、と息を小さく吐いて、座ったままで俺を見上げた。

「・・・・大介君、私が来るの、迷惑?」


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