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俺は絡んだ視線を外してコーヒーをあける。そして小さい声でこたえた。
「・・・・いえ、ただ、何でかと思って・・・」
ソファーの上で手を広げて体を伸ばしながら妙子さんが言った。
「――――――暇つぶし」
「え?」
ハッと顔を上げた俺に妙子さんはにっこりと笑った。
「暇つぶしよ。ダンナが居ない家に一人でぽつんと居てもつまらない。それだったら体を動かして、ついでに映画館が綺麗になるほうがいいかなーって」
「・・・・」
「――――――・・・それと」
缶は開けたけど飲めないままで立つ俺を、相変わらず笑顔で見詰めて妙子さんが言った。
「・・・大介君とも会いたいし」
明るい声だった。ニコニコしていた。俺はそれを見ていて、その内苦しくなってきた。胸のとこがざわざわした。
妙子さんから視線を外してぼそりと呟いた。
「・・・俺、帰ります」
え、と妙子さんが立ち上がったけど、もぎりのカウンターに入口とシャッターの鍵を置いて、ガラスのドアを開けた。
「大介君?」
振り向いて、妙子さんを見た。
「鍵、宜しくお願いします。俺明日休みなんで。・・・コーヒーご馳走様でした」
そして外に出て、するっとシャッターを潜り抜けた。