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妙子さんの声がした気がしたけど、大股で歩いて前だけを向いていた。
女性が追いつけないスピードでぐんぐん歩いた。
初秋の晩で、月が出ていて、俺は一人で汗をかいていた。
不意打ちだった。
まさか、あんな言葉を妙子さんが言うとは。
コーヒーは飲めないままで、家の近所の公園に捨てた。
勿体なかったけど、飲めなかった。
妙子さんがくれたものは。
飲んでしまったら、気持ちが膨らみそうだった。抑えがきかなくなりそうだった。
それが怖かった。
――――――大介君とも会いたいし。なんて。何考えてんだ、あの人は。
自分の部屋のベッドに転がって、両手で顔を覆っていた。
「・・・・参った」
どうしたらいいだろう。俺から手をのばすなんて出来っこない。
でけど、あっちからのばされたってその手を取るなんてもっと出来ない。
「参った、参った、参った・・・」
もう呟きしか出ない。
ご飯片付けてしまってーって、母さんが怒鳴ってる。俺はもそもそ起き上がって、長いため息をついた。
そして食卓につくために、部屋を出た。