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答えは、決めた。
どうしようもないから、全力で逃げよう。
逃げる、あの人から、俺は―――――――――
翌日、支配人に電話した。
妙子さんが客の誘導をしていて、絶対に電話に出ないと判ってる時間に。
「いきなりなんですけど、今月で辞めさせてください」
俺の言葉に支配人はしばらく黙って、低い声で言った。
『・・・就職活動が始まるってことにしておくよ』
携帯を耳に押し付けたままで、正座して頭を下げた。支配人にはそれは見えてないって判ってたけど。
「・・・すみません」
『皆には黙っておきます。じゃあ、あと3日で終わりってことで。今までありがとう』
俺が居なくなれば、次の朝からいきなり困ることになる。それも全部支配人がかぶってくれるのだろうとわかっていた。いつも昼からしか来ない人が、朝一番にきてシャッターを開けるのが。
次のバイトが見つかるまで。
それも、津野田さんにも妙子さんにも黙っていてくれるって。
悪役を引き受けてくれた支配人に、俺は心から謝った。
全部、判ってたんだろう。
あの少し濁った瞳で、支配人はいつでもちゃんと見ていたんだろう。
俺が妙子さんを見ていたことも。