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背伸びをやめて、赤くなった顔を両手で抑えた。
「すみません、大きい声で・・・」
彼はあはははと笑って手を振った。
「いや、驚かせたの俺だしね。何見てたの?」
あたしはまた後ろの光景を眺めた。
「・・・女の人がイルカと話してるんです。それが・・楽しそうで・・・」
どれどれと彼が覗き込む。そして、ああ、と明るい声を出した。
「今、別の水族館から視察できているんだ、あの人。若いけど経験も長くて、こちらも勉強になるよ」
その声の感じにハッとした。
思わず彼を見上げると、うん?と笑顔であたしを見た。
「むっ・・・・」
言いかけて、とっさに止める。中途半端な言葉を彼が繰り返した。
「む?」
あたしは慌てて言いなおす。
「・・・む・・・難しいんですか?ドルフィントレーナーになるのって」
井上さんはいやいやと手を顔の前で振った。
「特に必要な免許や学歴がいるわけじゃあないんだ。誰にでもなれるんだよ」
「え、そうなの?」
思わず敬語を忘れて言うと、うん、と頷いた。
「やりたければ、努力すればなれる。だけどイルカショーをする水族館に対して志願者が多いから実際に職に着けるのには運も必要だけどね」