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・・・はあ、成る程。需要より供給の方が多いってことか。それにしても資格や免許がいらないとは思わなかった。
「そして、憧れてなった割には辞めていく人間も多いね」
言葉が続いた。あたしはそれを黙って聞く。
不思議そうな顔をしていたんだろう、にこっと笑って、彼は説明した。
「相手は生きてる動物だし、賢いし、あくまでも対等の付き合いを望んでいる。友達になれなきゃ仕事にもならないし、それに―――――」
声を潜めて、いたずらっこみたいな目を輝かせた。
「・・・給料が低いんだ。労働の割には」
あたしは驚く。・・・ドルフィントレーナーなんて、言ってみれば究極のサービス業だと思うけど???
「低いんですか?」
「低いね。家族持ちではちょっとキツイよね、多分。だからドルフィントレーナーには若い人間が多いんだよ」
非常に納得した。そうかあ~、前から思ってたんだよね、イルカのお姉さんやお兄さんは皆若いなって。あれのわけは、現実的な給料の話もあったんだ。
「・・・井上さんも、結婚したら辞めるんですか・・・?」
あたしの小さな呟きも聞こえたみたいだ。彼は小さく苦笑して、あたしから視線を外した。
「・・・・俺は、結婚しないかも、ね」
そしていつものように、今日もありがとうってあたしに笑顔をくれて歩いていった。
夕焼けの中あたしはそれを見ていたけど、踵を返して水族館から砂浜に出た。
海に落ちる太陽を眺めて、打ち寄せる波音に耳をすませた。
しばらく、砂浜に座り込む。
・・・・・あたし、判っちゃった、かも・・・。目も細めずに真っ赤な夕日をみていた。
・・・・井上さん。もしかしたら――――――・・・・