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 あはははって笑い声が風にのって流れてきた。

 明るい10月初めの海辺で、どれだけ頑張っても手の届かない世界をあたしは物陰からただ見詰める。

 ・・・・・あんな顔して笑うんだあ・・・。

 あたしに向けられた笑顔じゃないんだって、それがあんまりにもハッキリと判って鼻の奥がツンとした。

 風に舞った砂が彼女の頬についたのを、彼が長い指で払う。その仕草に、視線に、笑顔を消して近くで見つめあう二人に、あたしはパッと背をむけて浜辺から道路へ抜ける松林の中に飛び込んだ。

 口元を片手で押さえて走った。

 7センチのヒールサンダルで、出来る限り早く走った。

 手を離すと嗚咽を漏らしてしまいそうだった。

 松林から駐車場へのフェンスのところまで走って、ずるずるとしゃがみ込む。


 もう・・・・もう、無理だぁぁぁ~・・・・


 鼻も目も痛い。視界は霞んで何も見えない。

 両手で押さえたけど、防ぎきれない泣き声が漏れてしまう。


 ぶわあああっと涙が溢れた。


 あんなの見ちゃったら、もう、もう、ダメだあ~!!

 朝になれば太陽が昇ることみたいにハッキリと判ってしまった。


 井上さん、井上さん、井上さぁん・・・



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