10%


 休みの日に妙子さんの事を思い出したりなんかはしない。

 顔を見たくて急いで映画館に来たりなんかもしない。

 だけど仕事中に、妙子さんを確認しに事務所を振り返って覗くことが最近よくある。

 お茶に誘われたら、仕事の手を止めて事務所に入ってしまったりもする。

 仕事に入って、今日は妙子さんは来るのかとシフトの確認をしたりもする。

 このアルバイト先で、唯一年齢の近い人だからだ、とは思う

 でも、後姿を目で追ったり、映画館に掛かってきた客からの電話での笑い声を聞いていたりする。

 その自分に気付いた。


 まだ、恋だの愛だのじゃあない。

 もし恋心があるとしても―――――――――10%や、そのくらいだ。


 お茶を飲み干してご馳走様でした、と呟き、自販機の補充をするために事務所に入る。支配人の机の引き出しに自販機の鍵が入っているからだ。

 妙子さんが津野田さんと話す声が聞こえる。

 缶のパッキンを開ける手を止めて聞いてしまっていた。ハッとして、頭をふる。

 ・・・・何してんだ。今は仕事中だってのに、俺は。

 大体、相手は、既婚者じゃないか。7歳も年上の。

 力を込めて、缶ジュースのパッキンを台車に積んだ。



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