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 椅子にもたれて、彼が言った。

「・・・バイト、辞めたから。これからは誘われたら参加出来る」

 ・・・・・へえ、と思った。いつもバイトが忙しくて参加してなかったのか。

「辞めたの?何で?あ、もしかして就活?」

 あたしが気軽に聞くと、首を振って黙ってしまった。

 ・・・・えーっと。・・・聞いちゃいけなかったのかしら・・・。

 会話がなくなって、どうしようかと思っていると、また静かな声で彼が聞いた。

「・・・・前の、飲み会で話してた好きな男、あれどうなった?」

 ぴしって音が聞こえたみたいだった。

 あたしの心臓が、また少しだけ傷を作って開いたみたいに。

 よっぽど暗い顔をしたんだろう、前の席に座る佐藤君は、あたしの顔を見て慌てたようだった。

「・・・あの・・・俺・・・ごめん」

 あははは~って自分の声が遠くから聞こえた。あたしは目を合わせないようにして、口元だけで微笑む。

「・・・・ダメだったの、結局・・・。彼には好きな人が出来て、それがハッキリ判ってしまって、見事な玉砕・・・いや、違うか。勝手に失恋、だな。付き合って下さいって言って断られたわけじゃないし・・・」

 ぼそぼそと口の中で喋るのを、彼はじっと見てるようだった。

「・・・・ごめん、辛いこと聞いた」

「いいよ~。ちょっとマシになってきたとこだし・・・」

 あの浜辺の日から、あたしは水族館へいけなくなった。あの青い世界に、どうしても入っていけないのだ。入口で足が止まってしまう。


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