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彼を見れない。彼が見詰める彼女も見れない。体が震えて、どうしようもなかった。
2週間経っていたから、そろそろ水族館の人たちもあの子最近見ないなって思ってる頃だと思った。
佐藤君が言った。
「・・・それが知りたくて。飲み会、参加したらまた、話できるかと思って。そしたら、ここで見つけたから」
「知りたかった?どうして?」
泣きそうな声に自分で驚きながら、とにかく問いかけた。頭から井上さんのことを追い出したかった。
彼もちょっと驚いたようだったけど、あたしの鼻声には触れず、ゆっくりと答えた。
「・・・・そんなに人を好きになれるのが・・・判らないというか・・・俺には新鮮だったから」
下を向いて、両手をテーブルの上で合わせていた。
「羨ましい、というか・・・」
あたしはお茶を飲んで、落ち着こうと努力する。そして何とか笑ってみせた。
「・・・・いい事ばっかじゃないけどね。思いが通じなくて、どうしようもなくて、全身が痛かった」
何かを思い出しているような顔で、佐藤君はぼんやりしていた。
そして小さな声で、ぽつんと言う。
「・・・ざわざわするよな、胸のとこが。何か・・・」
あたしは鼻をすすって、佐藤君を改めてみた。学食の喧騒が遠のいたようだった。
「好きな人がいるの?」
表情は変えずに、佐藤君は少し首を傾げる。
「――――――多分、好きだった。でもダメな相手だったから」
「ん?」