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夏の終わりだった。
最終回の上映が終わって、客を全部出した(言っても、6人しか居なかったけど)後の映画館で、入口のシャッターを半分ほど閉めて、俺は一人で映画館の掃除をし始めていた。
どうせ一人だし、音楽は映写を止める時に津野田さんが消してから帰ってしまうので、ウォークマンを聴きながら掃除をしている。最初は勿論そんなことはしてなかったけど、電話もかからない上に静かな映画館では音が響いて、一人で掃除していると気が滅入ってくるのだ。
仕事中に音楽が聴ける、小さな映画館に勤めるメリットとしては、そんな自由がある。
だから今晩もそうしていた。
最近聞いているアイスランドのバンドのアルバムを流しながらいつもの手順で掃除を始める。
まずは客席の間に落ちたゴミを集め、椅子に忘れ物がないかを点検し、ジュースやなんかを零したあとがあれば拭いたりする。小さいとは言っても150席もあるので、一人でするとそれなりに時間がかかる。
待合室、そして両方のトイレ、事務所の床を簡単に。自販機やソファーをふき、金庫の施錠を確かめ、明かりを落として、やっと帰宅となるのだ。
だけど、今晩はちょっとした異変があった。
客席内の掃除を終わらして、ウォークマンの音楽にのりながら待合室に出てくると、目の前に人影が見えてビックリした。
「うわあ!」
本気で驚いて飛び上がった。
音楽で、入口が開いた音も誰かが入ってきたことにも気がつかなかったのだ。
驚いて跳ね上がった鼓動を抑えながら、腰につけたウォークマンのスイッチを消す。冷や汗が出てきたほどだった。あまりに驚いて。
「・・・・・妙子さん!」