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 俺は妙子さんを少しだけ見て、また下をむいた。

「聞いても、何も出来ませんから」

「・・・うん、大介君らしい返事だわ・・」

 そしてソファーの背にもたれて座り、目を閉じた。

「・・・顔がもう少し元に戻るまで、居させてね。もう泣かないからどうぞ仕事の続きをして」

 目を閉じて静かに呼吸をしている妙子さんを見ていたけど、やっと立ち上がって、掃除の続きを開始した。

 もう音楽は聴けないからウォークマンは外して鞄にしまう。

 手順通りに、静かな映画館の掃除をしていく。妙子さんも黙ったままなので、俺が立てる音と時計の針の音だけが響いていた。

 ぐしゃぐしゃになって泣いていた。その顔が頭から離れない。

 話を聞いてしまったら・・・・俺は間違いなく、妙子さんの味方をするんだろう。そして、その発展性のない状況が、突然、いやと言うほどハッキリと判った。

 塵取りや箒、モップを片付けて、事務所の電気を消し、鍵をしめてホールに戻った。

 妙子さんはそのままの格好でだらりと座っていた。

「・・・・・妙子さん」

 声をかけたら、目を開いた。

「俺、帰りますけど」

 ぼーっとしているようだった。

 しばらく俺を見ていて、その内ゆっくり微笑んだ。

「・・・・終わったのね。じゃあ、私も・・・帰ろうかな」

 立ち上がって歩いてくる。


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