10%


 そして俺を見上げて、笑った。

「本当に、今日はごめんなさい。ビックリさせたし、迷惑だったでしょう。でも大介君のお茶で復活出来たわ」

 その笑顔を見下ろしていた。

 胸のところがざわざわした。

 ほとんどスッピンの、目元と鼻を赤くした妙子さんの、瞳の色が焦げ茶であることも判ってしまった。

 こんな表情はきっと、俺だけしか知らない―――――――――


 俺はパッと視線を外し、いえ、と首を振った。

「・・・大丈夫です。帰り、気をつけてください」

 はい、了解です、そうふざけて妙子さんは、先にドアを出てシャッターをくぐる。

 俺は入口に鍵を閉めて、シャッターを勢い良く下ろした。

 また明日ね~と手を振って妙子さんが遠ざかっていく。

 俺はしばらくそれを見ていて、妙子さんの姿が視界から消えた後、シャッターに頭を打ち付けた。

 ガシャン!!と凄い音がした。

「・・・いってぇ・・・」

 何してんだ、俺は。

 手の届かないものを好きになったって、どうしようもないんだぞ。

 まだ10%だ。今は、まだ。

 でもその内どんどん膨らむ予感がしていた。

 この10%が・・・・。


 一度深呼吸をして、歩き出した。

 時間も遅くて、駅前は閑散としていた。



< 9 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop