泡影の姫
待合室のテレビをぼんやりと眺めていた湊は私は見つけると軽く手を上げた。
湊の方にゆっくり歩いて行くと隣に腰を下ろす。

「どうだった?」

足の方に視線を落とした湊に大丈夫と笑いかけた私は持っていた荷物をすべて湊に押し付ける。

「さて、ちょっと付き合いなさいよ」

そして湊の返事を待つことなくなるべく素早い動作で立ち上がる。
とはいえ足を負傷中なので私が歩き出すよりも湊が隣に並ぶ方が早かったけれど。

「出口、あっち」

「うん、けど行きたいのはこっち」

私の進行方向と出口が逆なことくらい私にだって分かっている。
ゆっくりゆっくり歩く私の歩幅に湊は文句ひとつ言わず合わせてくれる。
その優しさがうれしくて、私は自然と笑っていた。
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