泡影の姫
「心配してたよ、彩愛さん。まるで、迷子になった小さい子供みたいな顔をしてた。助けてって、言ってた」

彩愛さんと話したあの日のことをどこまで湊に伝えればいいのか私には分からなくて。
断片的に事実だけを述べる。

「そんなに嫌なのかよっ、俺が!!」

握った拳でフェンスを乱暴に叩く湊。
ぐしゃっとつぶれた金具の音が、湊の心がつぶれた音みたいに聞こえて。
私の心も軋む。

「違うよ、湊」

固く握った湊のこぶしに自分の手を重ねる。

「湊を助けてって、彩愛さんはそう言ったんだよ。湊が、心配。湊が、大事って。彩愛さんはそう言ったんだよ」

すぐ近くで湊が息をのむ。

「私、あの日彩愛さんを拒絶してしまった。なんなのこの人って。ズタズタに傷つけたくなったの。大嫌いな私に似てたから」

私はあの日彩愛さんを拒否してしまったことを今になって後悔している。

もっとちゃんと向き合えばよかった。

そうすれば彩愛さんの言葉を、ちゃんと湊に届けられたのに。
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