泡影の姫
星を見よう。

唐突に入った湊からのメールにはそれ以上のことは書かれていなかった。

天体観測なんて小学生の夏の宿題以降したことがないので良く知らないが、なんだかすごく夏っぽいお誘いだ。

それはいいのだけれど。

何日に?

何時に?

そもそもどこに見に行くっていうのだろう?

詳しいことは何一つ書いていない。
まぁ湊らしいといえば湊らしい。

了解、とだけ返事をした私は、そう納得して次の連絡が入るのを待つことにした。

あのあと湊が教えてくれたのは、湊が私より一つ年上の18歳であることと湊のメールアドレス。
この二つだけ。

でも連絡がつくようになったのはありがたい。
これでもう夜の街を、彼を探して徘徊する必要が無くなった。
夜家を抜け出して無意味にうろうろ彷徨うのは、両親にとても心配をかけてしまうし、学校に行きだした今ではばれるとちょっと厄介だ。

そっと自分の左足に触れる。
足の腫れは先生の適切な処置と見立てのおかげですぐに回復した。
今は特に痛みも自覚症状もない。
この足なら簡単に家を抜け出せるはず。

湊から詳しい連絡が来たら準備しよう。
それくらい気軽に私は湊からの連絡を待っていた。

だからまさか。

「今日のこととは思わないでしょう、普通」

私の家のすぐそばまで迎えに来ていた湊に向けての第一声はそれだった。
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