泡影の姫
「ほんと、お前分かりやすいな」

私から視線をはずし元いた位置に寝転がると、

「家族って、なんだろな?紙切れ一枚で他人が繋がるなんてさ」

私に、というよりも自問するようにそう吐き出す湊。

「努力、したんだ。これでも。俺も、彩愛も」

「努力?」

「姉と弟になる努力。家族になる努力。けど、無理だった」

絞り出すような湊の声に耳を傾けながら、私は空を見つめる。

「どうして?」

「近づきすぎたんだ。お互い。好きになるのに時間はかかんなかった」

ぽつり、ぽつりと湊の言葉が暗闇にのまれていく。

「彩愛がいろいろ教えてくれた。あの頃がたぶん一番不安定で、無鉄砲で、すごく幸せだった。手に入らないものなんて、ないって勘違いできるくらいには」

不意にプールに魚を放り込んでいた湊の話を思い出す。

何度も何度もそうやって、試した彼の姿を想像する。

変わることを望んでいたのだといった彼が一番望んでいたものは、彩愛さんに募るどうしようもない恋心だったのかもしれない。

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