泡影の姫
「付き合ってた…の?彩愛さんと」

何も考えず飛び出した言葉を反芻してすぐに後悔する。
こちらを向いた湊と目が合う。

「聞きたい?」

ニヤニヤと意地悪く笑う湊。

「湊が言いたくないことは聞かない。……って言ったけどごめんなさい、やっぱり私は子どもなので気になります」

出てしまった言葉はもう元には帰らない。
私は正直な気持ちを湊に告げた。

「ちゃんと付き合ってはなかった。書類上は姉と弟だし。でも、自惚れなんかじゃなくて、ちゃんと気持ちが通じた瞬間はあったんだ」

確かに、あったんだと。

湊がそうつぶやいた瞬間、星が一つ流れた。

それは瞬きするくらい一瞬の出来事で。

祈る時間すら与えずに消えた。

「私も、そう思う」

彩愛さんが湊に向ける感情は、姉としてのものだけではないだろう。

それでも彼女は選んだんだ。

湊との関係を。

家族という形を。

「好きって、大変だね。知らなかった」

好きなだけでは、どうしてダメなんだろう?

どうして、一緒にいられなくなってしまうんだろう?

少し湊のことを思うだけで、泣きたくなるほど苦しいのに、それでもやめられなくて。

私ですらこうなのだ。
湊は何年、そんな気持ちを抱えて、何年彩愛さんとぶつかっているんだろう?
その想いは、私には想像できない。
< 119 / 157 >

この作品をシェア

pagetop