泡影の姫
5章―すなわち、私は泳ぎ君は歌う
蛍と約束した大会は、今年の夏最後の大きな大会で、大いに盛り上がっていた。
蛍は順当に勝ち上がり、決勝まで駒を進める。
今季の彼女の調子はかなりいいみたいだ。
いい緊張感を持って、一瞬のために泳げる蛍がうらやましいと、少し胸の奥が焦がれる。
去年まで、私もあそこにいたのだと思うと観客席から彼女を眺める今を切なく思う自分も確かにここにいる。
それでも、私はここに来た。
胸を刺すような痛みは、まだ消えない。
きっと、もうしばらくは私を締め付け続けるだろう。
「……平気か?」
私を気遣うように湊がそう尋ねる。
約束したから。
っていうのはもちろんあったけど、それ以上に私は私のいた世界を外から眺めてみたいと思っていた。
その一方で、一人では逃げ出してしまうかもしれないとも思っていた。
そんな弱音を吐いた私に、わざわざ自分の傷をえぐるようなことをしなくてもいいじゃないかと、湊はそういったけれど、どうしても行きたいのだと私が言うと一緒に来てくれた。
「大丈夫だよ」
プールサイドで軽くストレッチをする蛍を見ながら、私は笑う。
どうにもならない今だけを見て、悲観せずに済むのは、隣に湊がいてくれるからだ。
一人じゃなくて、本当によかった。
湊がいてくれなかったら、私はきっと今日この場には来られなかったと思う。
湊には感謝してもしきれない。
蛍は順当に勝ち上がり、決勝まで駒を進める。
今季の彼女の調子はかなりいいみたいだ。
いい緊張感を持って、一瞬のために泳げる蛍がうらやましいと、少し胸の奥が焦がれる。
去年まで、私もあそこにいたのだと思うと観客席から彼女を眺める今を切なく思う自分も確かにここにいる。
それでも、私はここに来た。
胸を刺すような痛みは、まだ消えない。
きっと、もうしばらくは私を締め付け続けるだろう。
「……平気か?」
私を気遣うように湊がそう尋ねる。
約束したから。
っていうのはもちろんあったけど、それ以上に私は私のいた世界を外から眺めてみたいと思っていた。
その一方で、一人では逃げ出してしまうかもしれないとも思っていた。
そんな弱音を吐いた私に、わざわざ自分の傷をえぐるようなことをしなくてもいいじゃないかと、湊はそういったけれど、どうしても行きたいのだと私が言うと一緒に来てくれた。
「大丈夫だよ」
プールサイドで軽くストレッチをする蛍を見ながら、私は笑う。
どうにもならない今だけを見て、悲観せずに済むのは、隣に湊がいてくれるからだ。
一人じゃなくて、本当によかった。
湊がいてくれなかったら、私はきっと今日この場には来られなかったと思う。
湊には感謝してもしきれない。