泡影の姫
前日まで土砂降りだったとは思えないくらい、空は澄んだ水色をしていた。

秋晴れ。

今日はそんな言葉がよく似合う日だ。

そんな、よく晴れたこの日に彩愛さんは結婚式をするという。
入籍自体はすでに済ませていたらしいが、結婚式の日取りはなかなか決まらなかったらしい。

湊に出席してほしかったから、っと彩愛さんは苦笑しながら話してくれた。

「自分勝手なのは、十分分かっているの」

左の薬指に指輪をはめていない彩愛さんは、指輪のないそこを右手の指でそっとなぞる。

「〝おめでとう〟なんて言ってくれなくていい。幸せを願ってくれなくていい。蔑んだ言葉で構わない。ただ、どうしても湊に見て欲しかった」

音楽をやめた彩愛さんと。

やめる選択肢をくれた彩愛さんの旦那さん。

その選択が正しいのか、なんて。
多分誰にも分からないし、決めるのは彩愛さん自身だ。

「前に、進むために。必要なことだと思ったの。私にも、湊にも」

彩愛さんは、たぶん私が思っているよりも強くて。

私が思っているよりも、ずっと湊を愛している。
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