泡影の姫
エピローグ―泡影の姫
3月。

桜の蕾がほころぶにはまだ早く、身を切り裂くほどの寒さがようやく和らぎ始めた今日、私は高校を卒業した。

一時は卒業すら危ういと言われていた私が無事に今日という日を迎えられたのは、ある種の奇跡に近い気がする。
その奇跡は、もちろん私一人の力では得られなかったものだ。

制服のまま飛び込み台に腰かけて、慣れ親しんだプールを覗き込む。
誰も泳いでいないプールには波紋ひとつなく、静かにそこに横たわっていた。

本来ならもうここに来ることはできないのだけれど、卒業式の日にわざわざプールサイドに来る物好きはいないので、忍び込むのは簡単だった。

塩素の匂いが鼻の奥まで染み渡る。

ここのプールも今日で見納め。

それが、なんだかさみしい。
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