泡影の姫
どれくらい没頭していたか分からない。立ち止まって顔を上げれば、そこに湊がいた。

「楽しかった?」

「めちゃめちゃ、楽しかった」

私は、きっと何ヶ月かぶりに本当に笑ったんだと思う。
水から上がると、足が重たかった。
少し無理をさせすぎたらしい。
足が言うことを聞かずガクンともつれる。
湊が手を貸してくれて、何とかプールサイドに落ち着いた。

「あぁーやっぱ泳ぐの気持ちいいわ」

「なっ、来てよかっただろ?好きなもん抑えたって良くないって」

そうかもしれない。
どれだけ無視してもきっとつらいだけだ。
速くなくても、評価されなくても、泳ぎたければ、泳げばいい。
今まで積み上げたものが邪魔なら、いっそ壊してしまえばいい。
身軽なほうが、泳ぐにはいい。

簡単だった。

好きだと言える。

それはとても幸福なことだ。
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