泡影の姫
「何で、湊は歌っているの?」

「聞いて欲しいからかな?」

「でもみんな素通りじゃない」

「けど、お前は足を止めただろう?百人いて九十九人通り過ぎたとしても、一人くらいは足を止めてくれるかもしれない。しかもそれが俺の歌で立ち止まってくれたなら、それってかなりすごくないか?」

「もし、百人通り過ぎたら?」

「足を止めてくれる百一人目を探すだろうね」

湊の横顔を見ながら湊ならきっとそうするんだろうなと思う。
湊の生き方が、私は羨ましい。
私は、拗ねて、諦めることしかしなかったから。

「何で泳ごうと思ったんだ?」

「分かんない。気付いたら泳いでいたの」

どうやって泳げるようになったのか、私は思い出せない。
もちろん幼い時からずっと泳ぐ練習はしてきた。
でも気づいた時にはもうすでに泳いでいた。
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