泡影の姫
「私ね、骨折したんだ。駅の階段から落ちて。突き落とされたんだと思う。本当に相手にその意志があったのか分からない。でも、私は確かに突き落とされた」

階段からの転落は、人生の転落だった。

『私の世界』の終りはあまりにあっけなく唐突に訪れた。

その日の朝はいつもと変わらない始まりで、いつも通りの電車に乗って、いつものように学校に行って、いつもみたいに朝練習する予定だった。

それが、一体どこで狂ったのだろう?

思い返してみても、私にはそのきっかけの片鱗さえ思いつかない。

あの日の出来事を詳細に思い出そうとしてもどこかぼやけてしまう。

それでもはっきり覚えている。

落下していく身体と。

骨の折れる鈍い音と。

全身の痛みと。

自分の叫び声。

繰り返し、繰り返し私は何度も夢に見た光景。
気付けば私はいつでもあの悪夢にうなされている。
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