泡影の姫
「……まぁとりあえず、泣いとけ」

湊の腕が伸びてきて、私は彼の手中にすっぽりと納まる。私のものではない心臓の音が、大きく響いた。

「……なんで?」

泣いたって、何一つ変わらない。
私はそれを経験で知っている。泣いて駄々をこねたって差し伸べてくれる手など一つもない。

神様なんて、どこにもいない。

「一番気が晴れるのは、泣いた時なんだと。次が歌を歌う時。ようは大声を出せばいいわけだ」

「目が腫れるじゃん。それに人前で泣くの、好きじゃない」

「まぁこれも受け売りなんだけど、水の中で泣けば目は腫れない。それにここには誰もいない」

湊は私を解放してくるりと後ろを向くと先ほどよりも少しだけ大きな声で、例の歌を口ずさんだ。
ギターに乗せて唄えば、それはどれほどキレイな旋律を奏でるか分からない。

物悲しく静かで、キレイなその曲を口ずさみながら、悲しい、辛い、痛いとまるで、湊が泣いているみたいだった。
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