泡影の姫
「ここ、母校なわけよ」

「だろうね。詳しいもん」

「中学の時、夏前になるとブラックバスを放流してた」

何で急にそんな話になるのかは分からないが、そんなころから彼は不法侵入を繰り返していたらしい。
でも通っていたから不法侵入にはならないのだろうか?
よく分からないので聞いてみたい気もしたが、話の腰を折るのも悪いので続きに耳を傾ける。

「一匹じゃ寂しいかなって、二、三匹増やしてみたり」

「怒られなかった?」

自分の中学時代を思い返す。
そんな悪戯やった覚えはないし、もし私が泳ぐプールにそんなことをするやつがいたら、たぶん締め上げに行っていた。
まぁ、うちの学校でプールが無人になる時期なんて一日たりともありはしないが。

「俺だってばれなかった。けど夏が来るとやつらは薬かなんかで殺されたんだ。しかも毎年。まぁ例外として科学部に捕獲されたやつもいたみたいだけど、結局解剖されてたし。残酷だよな」

「湊は、何がしたかったの?」

残酷だというその言葉の意味と重みを分かった上で、なぜそうせずには居られなかったのか、私はこの男の抱える闇を覗いてみたくなった。
それはまるで底が見えない真っ暗な穴を覗きこむような感覚に似ていた。
興味本位。
そこにあるのはそれだけだ。
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