泡影の姫
「香坂さん」

久しぶりに自分の名前を呼ばれる。
私を追って走ってきた彼女はスポーツ科、水泳部門期待のエース。
元私のクラスメートで、以前私のいた椅子に、今座っている人物だ。
彼女についてはそれくらいしか知らない。
名前すらも思い出せない。
スポーツ科は別棟にある。
彼女が普通科の校舎にいるということは、わざわざ私を探していたということだろう。
だが、私を探す理由が分からない。
こんな風に、声をかけられるような間柄ではなかったはずだ。
彼女とは友達ではない。というよりもこの学校に私の友達はいない。

「どうしてなんですか!?」 

静かに冷たい声で、彼女は私を責めていた。

「なぜ、私がトップなんですか!何であなたが普通科なんですか!?」

体中を切り裂かれたような悲痛な顔をして、彼女は叫んでいた。
何度か言葉を交わしたときも、私の視界に入ってきたときも、彼女は常に華のように笑っていた。
こんな感情的な彼女を見るのは初めてだ。
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