泡影の姫
一体何が起きているのか理解できなくて、私は息をのむ。
彼女がよろよろと私との距離をつめてくる。

「なぜ、あなたがいないんですか!?」

彼女は私の腕を掴み、絶望したように廊下に崩れ落ちた。
彼女は、泣いていた。
私は異様なものでも見るかのように、彼女のことを見下ろしていた。

なぜ、彼女が泣かねばならない?

この学校にいるものならば、誰もが欲しがる地位を手にしたというのに。

彼女は嗚咽を繰り返しながらも、私を放そうとしなかった。
そんな彼女を見ていたら、蓋をしたはずの暗くて深い、ドロドロとした感情が湧き上がってくる。

ああ、嫌だ。

醜い感情から目を逸らしたいのに、目の前にいる彼女を見ていたらそれができなくなる。

「……良かったじゃない。目障りだったのでしょう?」

もう揺さぶられることはないと思っていた。
それでも、私は自分が思うほどに人間ができていない。
私はまだ17歳で、ただの無力な子供だ。
抑えていた感情があふれ出すのは、こんなにもたやすい。
こんな卑屈な自分、見せたくなんかないのに。
選手でなくなった今の自分のことを認めたはずなのに、大嫌いな自分が露見する。
今の自分を認められないって、勝手にあがく。
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