泡影の姫
「本当に…そう思っているんですか?」

彼女は驚いたように顔を上げた。信じられないとでも言うように。

「だってそうじゃない」

狙っていたくせに。

私が座っていたトップという椅子を。

まっすぐ見返してくる彼女の顔をまともに見れなくて、目を逸らしてそんな言葉を吐き捨てる。

違うのに。

こんなことを言うために、こんな気持ちになるために学校に来たわけじゃないのに。

二人の間に気まずい沈黙が流れる。
それを破ったのは、彼女だった。

「あなたみたいに、なりたかった」

「えっ?」

「私は……あなたに会いたくてここに来たんです!!あなたの泳ぐ姿が、好きで、あなたみたいになりたくて!!」

彼女は確かに外部からの編入生だった。水泳の名門として名を馳せているこの学校に、よそから引き抜かれてくる人間はそう多くない。

でも私は、そんな事情なんか知らない。

この子が何を思ってここに来たのかなんて、私は知らない。
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