泡影の姫
彼女の視線は空を彷徨うばかりで、ろくに私のほうを見ない。
先ほどの毅然とした態度はなんだったのか。

私はまたメロンソーダを喉に流し込んだ。
あまり美味しくはない。それでもこの不健康そうな色が私を惹きつける。

「私には、湊が何を考えているのか分からなくって……」

何でこの人はそんな当たり前のことを言うのか、私にはそのほうが分からない。
湊の考えなんて、湊にしか分かるはずないのだ。

『あの子が何を考えているのか、私にはもう理解できない!』

ふいに、そう嘆きながら顔を両手で覆っている母の姿が脳裏に過った。

分かってたまるか。

そんな言葉を炭酸と一緒に飲みこんだ。

「まるで、保護者みたいな口ぶりね」

私は視線を合わせずに、窓ガラスに映る彩愛さんにつぶやいた。

「それはだって…姉、だから」

やっと絞り出された、消えてしまいそうな声を拾いながら、彼女のほうに向きなおる。居心地が悪そうな表情をしながら、彩愛さんはそっと自分の右腕をなぞった。
自然と私の視線もそこに落ちる。
人目を引くほど大きな傷。
まだ咽返るほど暑い日が続くとはいえ、タンクトップ一枚で過ごすのはどうなのだろう?
目立つだろうに。
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