泡影の姫
手を出したそれらが私の日常からなくなっても、別に困りはしなかった。
最初から好きでやっていたわけじゃなかったからなのかもしれない。

居場所がなくても朝目が覚めれば、学校に通うようになっていた。

散々サボっていた私はどうやらこのままでは卒業すら危ういらしい。

別に卒業したいわけではなかったが、今の学年に留まりたいとも思わなかったし、今更退学届の手続きをす
るのも煩わしいと思っていた。だから流されるまま考えることを止めた。
そうしたら自然と深夜徘徊の回数も減っていった。

ゆっくり、

ゆっくり、

もともとの生活になじんでいく。

それなのに、どこかでこれは違うと何かが叫ぶ。

でも私はそんな声に耳を塞ぐ。

会いたいと願った人の顔を思い出さないように心の目をきつく閉じる。

生きていくのなんて、簡単だ。

息を吸って、

息を吐く。

それだけでいい。

湊のことはもう忘れよう。

関われば、私はまた醜い自分の内面と向き合わなくてはいけなくなる。

もう、沢山だ。

会いたいなんて思わなければ、いつか忘れられる。

それに、また会えるとも限らない。

そうやって、考えることを放棄した。

だから夏休み前に渡された進路希望調査書は真っ白のままで、今もかばんの中に納まっている。

私にはこの紙に書くべき言葉が見つからない。

〝水泳〟

たった一つの道しか決めていなかった私は、

それ以外の生き方を探せずに、

今もこうしてどこにも辿りつけずに漂っている。
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