泡影の姫
「相葉さん」

「え?香坂さん?どうしたんですか?」

「お願いがあるの」

プールサイドで休憩をしていた相葉を捕まえて話しかける。
私服のままプールサイドに来たのは初めてだった。

「予備の水着あるよね?貸して欲しいの。それから、私と勝負して」

「勝負…ですか?」

相葉はやや困惑したように首をかしげる。
無理もない。
事故以来プールサイドに来ること自体なかった私が、いきなり相葉に勝負を申し込んだのだ。
今まで一度だって交わることがなかったのに。

「どうして、急に…?」

「無理を言っているのは分かっているの。でも、全力で勝負して欲しい」

きっと相葉には敵わない。
それでも負ける気がしない。

「でも、足が」

「お願い」

それでも私は引き下がらない。
そんな私を見て相葉は了承してくれた。

「プールサイドに人を入れてもいい?」

相葉の許可を取る前に、湊は勝手に下りてきた。
彼もまた困惑したような表情を浮かべていた。

「彼は誰ですか?」

「私の……恩人」

これが一番しっくり来る気がする。
友達じゃないし、自分の中での湊への感情がはっきりしないから。

「お前一体何を考えて……?」

「今から相葉と全力で勝負するから、審判よろしく」

そう言って私は着替えに行った。
< 82 / 157 >

この作品をシェア

pagetop