泡影の姫
負けたくない。

負けたくない、

負けたくない、

負けたくない。

湊と侵入した中学校のプールとは比べ物にならないほどのスピードを出す。

すぐ足が痛くなった。

それでも構わない。

壊れるならば、壊れてしまえばいい。

足を最大限動かし続ける。
ターンをして折り返し、さらに足を動かした。
だが、急に左足が鉛のように動かなくなった。

これが、私の限界。

何も考えず、ただ速く泳ぐことはもうできなくなったらしい。

足を取られて私はプールに沈む。

競泳用のプールだから底は深く、足が届かない。

音のない世界。

このまま、沈めたらいいのに。

昔の私なら、そう望んだかもしれない。

消えるなら、水の中がいい。

だけど、今はただ怖いと思った。

ここじゃ、湊の歌声が届かない。
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