泡影の姫
無茶をした代償は大きかった。蛍に借りてきてもらった松葉づえを支えに、左足を引きずる。
プールから上がって陸上に戻ると体は自分でも驚くくらいにだるくて重たかった。
たった数か月練習をさぼっただけで、私の体力は飛躍的に落ちたらしい。
ついでに腕の筋肉も。
両腕の力と右足でバランスを取るのはなかなか難しい。
手術後のリハビリを思い出して、げんなりした。

湊はプール塔入り口付近のベンチに腰かけていた。
私を見つけて、驚いたような表情を浮かべる。
ついさっきまでぴんぴんしていた人間が松葉づえをついて現れたら驚きもするだろう。

「おい、大丈夫か?」

「これで大丈夫に見えるなら、湊の目はものすごく節穴なんだと思うよ」

湊の言葉に軽口で返す。
それくらいの余裕はあった。

こんな無様な姿をさらす覚悟は、湊をここに連れて来ようと決めた瞬間からできていたから。
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