泡影の姫
「勘違いしないでよね」

私はまだ、湊の話を聞いていない。
あの日の「ごめん」の意味を聞いていない。
私はまだ樫井湊という人物について何も知らない。

「全部、私が私のためにやったんだから!」

そう。全部、全部、私のため。

これは、私のエゴだ。

だから私はその代償も背負わなくちゃいけない。
痛みも、苦しみも。全部。
私は生きている限り、私以外の何物にもなれないのだから。

「私、我儘なんだよ」

自分でも嫌になるくらいに。
我儘で、自分の事しか考えていない。
湊が好きだという自分の事しか考えていない。
湊の気持ちなんて、私は知らない。

「我儘じゃない人間なんて、いないだろ。多分」

タクシーが校門も前で止まっていた。

「じゃあ、我儘言わせて」

立ち止まって隣にいる湊を見る。
湊の瞳に私が映りこむ。

「私、湊が好きだ」

一瞬呆けたような顔をした湊を置いて私はさっさとタクシーに乗り込む。
私が乗り込むのを確認してから、一拍おいて湊もタクシーへと乗り込んだ。
タクシーに乗っている間、私たちは一言も話さなかった。
ラジオの音だけがやたらと車内に響いていた。
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