アプフェル―幽霊と恋とリンゴたち
再会と真実

大統領邸にて

「さてリンゴさんよ、着いたぜ〜」


俺はあるきれいな邸宅の前で、狭苦しく、妙な危ないブツやら食べ物の切れはしが入った、野郎の典型的ポケットから抜け出せた。


小鳥から聞いた街の様子とは違って、高級そうな家が建ち並んだ界隈だ。庶民的な活気もなく、静かで、威厳さえ漂う冷たい空気を、俺はいっはいに吸い込んだ。


「アンナはここか?」


「いや……ここは確か大統領の私邸……」


訝しげにシュテファンがつぶやいた。


急に、墨を落としたように黒く光るレイの目が、俺をのぞきこんだ。


「ボス、いらっしゃいますか?これからここに入りますが、悲しいことが待っています。でも、ボスの命令ですから行きます」


あのセルジュまでも真面目な顔つきになっていた。


通された部屋はとても質素だった。ここまでに見てきた廊下やエントランスの調度品やインテリアはとても豪華だったのに、ここだけ時間が止まったようだった。


一人の女性が窓辺に座っていた。レイとセルジュは敬礼した。


「アンナさま、ご報告いたします」


「アンナ!?」


シュテファンはまさか、と言うように叫んだ。


「ここは、アンナが狙った大統領の邸宅だぞ……なぜ、アンナが?」


その女性は、以前は美しかったようだった。「だった」というのは、あまりに大きな苦しみ、絶望といったものが彼女の美しさを破壊し、そこに残っていたのは、かすかに美をとどめた脱け殻だったからだ。


「なに……?」


アンナはうつろな目で言った。


「実は、ボスがここにいらっしゃいます……このリンゴに、ボスが宿って……」


そこまでレイがささやいたところで、傲慢そうな太鼓腹の男が現れた。


「大統領閣下!」


レイにセルジュ、そしてシュテファンまでもが叫んだ。


大統領……なのか?俺のからだが、頭のように激しく痛む。俺は、何かを……知っている……?


「アンナ、具合はどうかね」


大統領は、アンナに近寄り、馴れ馴れしく頬にさわった。


その時、大統領の肩が直立不動の姿勢をとったセルジュに触れ、はずみで俺は床に落とされた。そこに大統領の靴が襲った。


俺はグシャグシャに潰された。レイとセルジュ、シュテファンとアンナの悲痛な叫びと共に……。
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