毒の石


「どこ行くの?」


つもりだった。


くるりと踵を返した瞬間背後に誰かが現れるのを感じて舌打ちをしそうになった。


屋上の気配が一つ消えている。


闇鬼か…。


「へっ!?だ、誰…!?」


いきなり後ろに人が現れ、しかも話しかけてきたら普通の女ならこう言うだろう、とそう言った。


「どこに、行くの?」


だが男はなにも答えずにっこりと笑いながらもう一度そう言った。


「あ、えと、入れそうにないので裏門に行こうかと…」


なんてわかりやすい偽物の笑顔。


そんな顔に騙される女も、騙せると思っているこいつもなんて阿呆らしいのだろう。


「今は裏門も閉まってるよ?」


変わらず笑顔でそう言う男にあたしは笑い出したくなる。


「え!?そうなんですか!?ど、どうしよう…」


だがそんな失態は犯さない。


当然だ、あたしは人を騙すことなど造作もない。


そうして生きてきたのだから。


まぁその分反動で夜はとことん暴れるがな。


「電話、すれば?先生に」


「あ!…って番号知らないじゃん…」


男の言葉に一瞬顔を輝かせるが少し固まり呆然と呟く。


そんなあたしを男は楽しそうに眺めている。


人をからかうのがお好きなようで。


良い趣味だこと。


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